左手の確認
斉藤茂太さんが亡くなられたというニュースを聞いた。ご冥福をお祈りします。
とはいえ、僕は斉藤茂太さんのことをよく知っているわけではない。本業が精神科医ということも、今回の訃報で初めて知ったぐらいだ。ではなぜ斉藤茂太さんのことを知っているのかというと、彼が書いた左利きに関する本を読んだことがあったからだ。
僕の家には、箱崎総一さんというこれまた精神科医が書いた左利きの本があった。彼は1970年代ぐらいに、当時の左利きに対するネガティブな風潮を変えるため「左利き友の会」という組織を結成した人物である。彼自身は右利きだが、彼の元に来た子どもの患者が、家庭や学校における無理な矯正が原因で精神的な疾患を発症していることに気づいたのが、友の会結成のきっかけだったらしい。僕は箱崎さんの書いた本を小学生か中学生のころに読んだ。それ以降、僕はこの本の存在をすっかり忘れていた。
話がなんとなくそれている気もするけど、その後大学に進学して、図書館にて斉藤茂太さんの本をふと手に取ったのだった。確か1,2回生のころだったと思う。これがきっかけで左利きに関する興味が高まり、自分の体験だけでなく、他の左利きの人がどのような体験をし、どのように考えているのかを知りたくなった。右利きの人間が「あたりまえ」と思っている世界は、左利きにとっては「あたりまえ」ではない。このとき感じたことは卒論のテーマにまでになった。斉藤茂太さんの本は、僕にとって左利き研究(最近してないけど)の原点といえるだろう。って内容はさっぱり覚えてないけれど。
そういえば、任天堂の新しいゲーム機「Wii」で発売される「ゼルダの伝説」最新作では、主人公のリンクの利き手が右利きに変更されたそうだ。これはWiiの特徴であるコントローラーの動き(振り)で操作する際、多くの人が右手でコントローラーを握り、振るのに、ゲーム内のリンクが剣を左手で振るというのは違和感があるということなのだろう。
ちなみに同時発売のゲームキューブ版は、リンクの利き手をはじめとするゲーム内のすべてのものが反転しているそうだ。GC版はある意味左利き用なのだ。
人間の身体は左右同じ形をしているように見えるが、実は非対称的だ。手だけでなく、目や耳、足、歯(どちら側でよく噛むか)には「利き」があるし、脳の機能や他の臓器にしても、対称ではない。
人間の身体が非対称である限り、Wiiコントローラーのような道具や環境、価値の「右」と「左」の問題は解消されないのかもしれない。とはいえ、そのようなものだと納得するのは違うように思う。とても微細な疎外感、ストレスの積み重なりは、どのようなかたちで声に出していけばよいのだろうかと思う。
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